業界研究、企業研究を進めていく中で次第に自分の就職活動の軸が出来上がり、目指したい方向性が見えてくると思います。
現段階で、早々に興味の持てない業界をシャットアウトしてしまう「決め打ち」は、あとあと持ち駒が減ってきたときの精神的ダメージの大きさと、自分の適性から見た活躍可能性の幅を自ら狭めてしまうことになるのでリスキーです。
業界を絞ったり広げたりする際に必要なこと。それは、
「働き方の観点から横串で業界を見る」
という考え方です。
・アイデア大好き!クリエイティブな仕事がしたいから広告!
・グローバルにダイナミックな仕事がしたいから商社!
という視点は、「働き方」までその視点を掘り下げていないため、動機や軸としては浅いです。
つまり、その業界に求められる能力はなんなのか。そして、要求される能力が近似している、親和性の高い業界はなんなのか。
そのような「働き方の近似値」から業界同士をセットにした社会の眺め方を本日はお伝えします。
◆第一走者「銀行×インフラ」
一見、金融機関である銀行と、電気ガス水道あるいは運有業である交通インフラを担う鉄道は、結びつきがないようにも見えます。
社会インフラと呼ばれる電気ガス水道や、公共交通機関は、人々が生活をしていく上で無くてはならない産業の根幹であり、社会の基盤です。水道の蛇口をひねったら当然水が出る。定期通りに電車が駅に到着する。
このような、日常の「あたりまえ」は、そこで働く社会基盤のインフラを支える各種企業によって成立しています。
一方、お金は天下の回りものであり、経済の血液と呼ばれる重要な役割を担います。また、銀行では個人や法人から大切な資産をお預かりし、厳正かつ適切に運用され、一円のミスも許されない緻密で繊細かつ重要な責任を負いながら業務を遂行します。
つまり、この両業界に共通するコンピテンシー(業界の性質上要求される能力)は、
「日常のあたりまえを堅実に守りながら、決められた手続き通りに規則正しく業務を遂行する」
ことです。
そこには、クリエイティブな発想も常識を覆す企画立案力も提案力も不要です。
とにかく、世の中に求められるあたりまえを止めずに、1分の遅延も無く1円の誤差も無く人々の暮らしの安心安全を守るために重責を負うのです。
そのような観点から、銀行とインフラ産業を横串で眺めてみると、この2つの業界を併願する事は説明可能な納得感があります。
◆第二走者「メーカー×IT」
製造業は幅広く、重厚長大産業の代表として例えば鉄鋼メーカーや自動車メーカーもあれば、スマホの中身を構成するような半導体や電子部品メーカー、化学や身近な食品や日用品メーカーなど裾野は広いです。
一方、IT業界(産業)と聞くと、PCに向かってひたすらプログラミングをしたり、顧客の課題をヒアリングしてシステムを設計・構築し、技術やノウハウを提供することで顧客のニーズに答えていくというイメージが一般的でしょうか。
両者をつなぐキーワード・接点は、
「ものづくりを通じて無から有を生み出し、社会の需要や課題解決を担う職人集団」という点です。
大きさは変われども、その根幹には「ものづくり」があります。サービスやノウハウといった見えない無形のものを人間力で提案するのではなく、当社の製品はこれです!ど堂々と自信を持って提案していく力。
また、ものづくりには技術力もさることながら、常により良い方向へ改善し実行しまた振り返りを行い次の技術や製品に反映させていくという、
「徹底した試行錯誤を繰り返しでPDCAを回していく業務改善能力」が要求されます。
作ったらこれで終わり、提案したらはいさようなら、ではありません。お客様と長きにわたるおつきあいの中で、提案した製品に不具合や問題点はないかフォローしていく。そこから出てきた新たな課題を持ち帰り、社内の制作チームや技術者と連携を図り改善に努めていく。
このような、ものづくりに対する圧倒的な愛着心やこだわりとPDCAサイクルを回しながら常に業務改善を行う事が得意な人には向いています。
奇抜で独創的なアイデアを活かすというよりは、今ある有形の製品に、どう付加価値を加えてさらに顧客に満足してもらえるかという長期的信頼関係構築力や、職人気質な粘り強さが共通のコンピテンシーでしょう。
◆第三走者「不動産デベ×商社」
人を巻き込み縦横無尽に駆け巡る
壮大なスケールでまちづくりを担い、人の流れを変え、街の景色を変え、新たな街の顔を作っていく不動産デベロッパー。そこには、長きにわたる建設計画と、大規模プロジェクトならではの多くの利害関係者との関わりが発生します。
一方、商社においても、1つのプロジェクトを推進させるためには、商社はその旗振り役として、時には黒子として、時には先頭を切るリーダーとして柔軟に役割のポジションを変えながら、やはりあらゆる業界や企業をつなぎ、圧倒的な情報量と行動力で関係者を取りまとめ巻き込んでいく心身のタフさが要求されます。
両者に共通するキーワードはまさに、
「プロジェクトの進捗管理を担う旗振り役かつかじ取り役」
という点です。
建設許可関連の都市整備局や関係省庁との膨大な書類のやりとりから、用地取得のための地権者との粘り強い交渉。大型プロジェクトにおいては、自社だけではなく競合他社ともタッグを組み、設計会社、建築会社、関連子会社、資材調達など何層にも折り重なる多様な立場の関係者に挟まれながら、日々の進捗管理と進行を担います。
商社においても同様で、ただモノを右から左に流すだけの仲介ビジネスに留まらず、プロジェクトの上流工程から小売などのエンドユーザーの手にわたるまでのまとめ役を担い、その立ち回りの過程においては、原料会社、物流、メーカー、金融機関、システム会社、仲卸や小売業者などの仲介役としてあらゆる利害関係者との調整や交渉に追われます。
そのようなプロジェクトのかじ取り役であり旗振り役であると同時に、
「大きな波のようなうねりを圧倒的な人間力と行動力をまとめあげ、チームプレイで最後までやりきる力」が要求されるでしょう。
時には、違う方法や別の道。コストや納期の見直しなど柔軟な思考と発想と突破力は、規則通りにマニュアルに沿って進めて例外は一切許されない銀行やインフラ産業とは真逆の立ち位置となります。
◆第四走者「商社×広告」
不動産デベロッパー×商社にも通じますが、実は広告にも似たような素養、つまり「プロジェクトの調整・交渉・進行役」という役割が求められます。
クリエイティブな発想や独創性が重要になるという思考が優先されがちですが、広告代理店にはクリエイターやコピーライターもいますが、文系で配属されるのは、そのほとんどが顧客との接点を担う「営業」です。
顧客、メディア、クリエイティブ、制作会社、デザイン会社との板挟みの中で、顧客の望む予算内で、顧客の望むイメージやデザインで、顧客の望む反響を生み出す広告を提案し、売上に繋げる。
・顧客に言われた通りのイメージやデザインで
・顧客の要望通りの予算内におさめながら
・顧客の納期に間に合わせつつ
・顧客の意向をきめ細やかにくみ取りながら社内のクリエイティブにも嫌われずにデザイン修正を依頼し
・顧客の望みを上回る成果を生み出し
・反響が少なければまたやり直し。
基本的にこの流れにおいては、顧客に言われた通りにやりきる力と、体力と精神力と愛嬌で顧客の、クリエイティブの、あらゆる人々の懐に飛び込める人間力が要求されます。
制作サイドと顧客との仲介役、板挟みの中で、「誰にも嫌われることなく、双方の要求に応えながらスケジュール管理や場所やメディアや人の手配を行なっていく。」
そこにはクリエイティビティというコンピテンシーよりもむしろ、
「誰からもかわいがられながらうまく立ち回る人間力と柔軟な思考と行動」が要求されるでしょう。
アイデアや独創性を活かしたいと思って飛び込んだとしても、要求されるスキルは、不動産デベロッパーや商社に要求される「多様な価値観・立場におけるあらゆる人間関係においてその仲介役として要領よく臨機応変に対応できてやりきる力」です。
以上、ざっくりと4つのケースで考えてみましたが、もっと細分化することも可能です。
・なにを(有形?無形?)
・誰に(個人?法人?)
・どのように売り(反響?ルート?)
・どう利益を生むか(仲介料?製作物?)
という2W+2Hを見ながら、各業界における業務を眺めて見てください。
偏見で見切るのは可能を狭めますので、興味が無くても広く見て行きましょう。