キャリア教育やキャリアデザインという言葉が世に出てからずいぶんと経ち、自分の職業人生をどのように設計・構築していくのかという議論、学問も進んでいます。
また、新卒や既卒のESや面接時にも、「あなたの5年後、10年後のキャリアプランを教えてください」というものも頻発します。しかし、キャリアは本当にデザインし、プランニングしていけるものなのでしょうか。
■キャリアの8割は偶然によって決定される?
そもそも、自分が望む、あるいは自分が想定しているキャリアをその計画通りに歩んでいくことはできるのでしょうか。
キャリアの8割は偶然によって決定されるとし、「計画された偶発性理論」は、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が20世紀末に提案したキャリア理論です。
プランド・ハプン・スタンスとも略されるこの理論に納得できることは多いです。
人生のほとんどを、中長期的に計画し、それを着実に実行できる人がいないわけではありませんが、途中で横やりが入ったり、計画外の予期せぬ出来事に遭遇して、まさかの軌道修正を迫られることも往々にしてあるからです。
ただ、クランボルツはそれをネガティブにとらえているのではなく、むしろ肯定的に、予期しない出来事、偶発的な出来事を自ら呼び寄せて、偶然の中で計画的にキャリアを構築していくことを提唱しています。そこで重要になるのが以下の通りです。
(1)「好奇心」 ―― たえず新しい学習の機会を模索し続けること
(2)「持続性」 ―― 失敗に屈せず、努力し続けること
(3)「楽観性」 ―― 新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
(4)「柔軟性」 ―― こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
(5)「冒険心」 ―― 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと
要するに、予想外、計画外の出来事を自らコントロールし、人生を前向きに選択的に歩んでいくためには、好奇心や挑戦心を持って行動していくということです。
また、とある方はこのような表現もされています。
新卒後に入社してから、自分の意思とはアンコントロールの範疇において部署移動が行われ(当然ですが)、その大きなうねりの中で自らチャンスを引き寄せていったという話です。
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私の職業人生(キャリアプラン)は、あらかじめ決めて突き進んできたわけではありません。
入社後の〇〇部署時代は、「OB訪問を誰よりも一生懸命受けてたこと」が人事に呼ばれるきっかけとなり、
人事部の時は、「震災がきっかけで新しくチャレンジしたくなったことと、適切な営業人材が採用できなかったこと」をきっかけとして、営業部に異動しています。
何が言いたいかというと、人生やキャリアは「ゴールイメージから逆算しにくい」ということです。
まず、「配属」ですが、これは自分で選べません。営業になるのかスタッフになるのかは人事が社内と調整して決めます。仕事ができるようになるには、自分のセンスや努力も重要ですが、師匠と呼べるような上司と接点を持てるかといいうのも大事ですが、上司も選べません。
でも、日々、くさらず仕事や依頼されたことと向き合っているとですね、時々、何かチャンスみたいなものはくるんです。なので、キャリアについては
「まず今ある仕事を一生懸命する(ある意味、時間の経過に流されてみる)、で、節目節目では自分で考えて行動を起こす」というのが大事です。
ボートで川を下るライン下りでいうと
「20代のうちは、激流を下ることに集中する。障害物に当たって転覆しないように、ただ前方を見てこぎ続ける」
「30代になってからは、川の流れが落ち着いて周りを見渡す余裕ができる。そこでどの山に登ろうか考え行動する」
というところでしょうか。
つまり、日々の仕事への向き合い方の中らから生まれるチャンスにしかヒントはなく、
「こうなろう」と思って、その通りになるようなものではありません。
(一部抜粋、割愛)
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キャリアを自在にプランニングできないのであれば、その大きな川の流れの中で、節目節目において冷静に見極めて選択してく。そのプロセスにおいて、次のチャンスがめぐってくるということです。
■自分にとっての「軸」は何か
では、そのチャンスを的確につかみ取り、自分の描くキャリアに進んでいくためには、自分の中にある大切にしている価値観、つまり軸を明確にする必要があると考えます。
アメリカ合衆国の心理学者であるエドガー・シャインは、 ある人が自らのキャリアを選択する際に、最も大切な(どうしても犠牲にしたくない)価値観や欲求のこと、また、周囲が変化しても自己の内面で不動なもののことをいいます。
要するに、何かを選択して決めて進むときに、「これだけは譲れないという最上位の価値観」を認識することの重要性を説いています。それをシャインは、 船が動かないように海に落とすアンカー=錨(いかり)にたとえ、一般的には「キャリア・アンカー理論」と呼ばれています。
1.全般管理コンピタンス
組織の中で責任ある役割を担うこと:集団を統率し、権限を行使して、組織の中で責任ある役割を担うことに幸せを感じる。
2.専門・職能別コンピタンス
自分の専門性や技術が高まること:特定の分野で能力を発揮し、自分の専門性や技術が高まることに幸せを感じる。
3.保障・安定
安定的に1つの組織に属すること:一つの組織に忠誠を尽くし、社会的・経済的な安定を得ることを望む。
4.起業家的創造性
クリエイティブに新しいことを生み出すこと:リスクを恐れず、クリエイティブに新しいものを創り出すことを望む。
5.自律と独立
自分で独立すること:組織のルールや規則に縛られず、自分のやり方で仕事を進めていくことを望む。
6.社会への貢献
社会を良くしたり他人に奉仕したりすること:社会的に意義のあることを成し遂げる機会を、転職してでも求めようとする。
7.純粋なチャレンジ
解決困難な問題に挑戦すること:解決困難に見える問題の解決や手ごわいライバルとの競争にやりがいを感じる。
8.ワーク・ライフ・バランス…個人的な欲求と、家族と、仕事とのバランス調整をすること:個人的な欲求や家族の願望、自分の仕事などのバランスや調整に力をいれる。
これら8つの分類の中で最重要の価値観をよりどころにして、職業を選択していこうということです。
確かに、自分が職業人生の転機において、何らかの判断や意思決定を迫られたときに、自分が一番大切にしている価値観、絶対譲れない条件って何だろうと考えたことがある人は少なくないと思います。
ただ、これは「何の仕事に就きたいか」という願望ではなく、「どのように生きて(働いて)いきたいか」という観点から見なくてはなりません。市況によって職業選択は変化していくものではありますが、大事にしている価値観=アンカーは、どんな世の中の、どの時代においても不変のものだからです。
組織に属している(属そうとしている)以上、その目標や方針に自分のベクトルを合わせていく必要はあるものの、自分軸さえ見失なわなければ、川の濁流に流されそうになっても、大海原に一人放り出されたとしても、その都度冷静に判断、選択し、進むことができるのではないでしょうか。
身もふたもない言い方をすれば、自身のキャリアを計画的に歩むことは、現実的にはほぼ不可能だと思います。
しかし、目の前の仕事に全精力を注ぎ、人のつながりを大切し、周囲の支えや助けに敬意と感謝の気持ちを持ちながら、当たり前にある仕事ではなない、貴重な役割と立場の中で、常に前向に目線を上げて仕事に取り組んでいけば、ある日突然、組織と個人のベクトルがバチっと合致するチャンスや瞬間が訪れると考えています。
プランド・ハプンスタンスも、キャリアアンカーも、どちらが正解ということではありません。
それこそ、人生は選択と決断の連続で今があるわけですから、自分の判断で主体的にキャリアを描いていきたいものですね。